日本の童話には、寿命に関する話がいくつかあります。
浦島太郎は、年を取らない竜宮城に行って乙姫様と楽しく暮らしていましたが、やがて故郷が恋しくなって帰って来ると、月日が経ち、周りの風景もガラリと変わっていて、知人もみんな死んでしまっていました。
悲しくなった浦島太郎は乙姫様から開けてはいけないと言われていた玉手箱を開けて年を取ったという、あの話です。
かぐや姫の話も寿命に関するものです。
かぐや姫は月のお姫様で、竹から生まれました。
竹はお正月の飾りにも使われる縁起物で、常緑が永遠の命を表します。
松や、梅も、冬に負けない永遠を表し、松は大物主命、竹は天照大神と豊受大神、梅は天神(天穂日命)を表します。
かぐや姫に恋した帝が、かぐや姫から不老不死の薬を貰いますが、月に帰ってしまってかぐや姫のいなくなったこの世には何の未練も無いと、月に一番近い富士山の頂上で、その薬を燃やしてしまいます。
どちらの話も、「永遠の命よりも大切なものがある」という主題があるように思われます。
また、古事記の神話の中にも、同じ主題が隠されています。
伊邪那美命(イザナミノミコト)は、火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)を産んだ時に陰部に火傷を負って死んでしまいます。
伊邪那岐命(イザナギノミコト)は、伊邪那美命(イザナミノミコト)に会いにあの世に行くのですが、伊邪那美命(イザナミノミコト)はあの世の食べ物を口にしてしまっていたので、この世には戻る事が出来なくなったと書かれています。
そして、伊邪那美命(イザナミノミコト)と再開を果たした伊邪那岐命(イザナギノミコト)でしたが、その腐敗した姿に驚き、、伊邪那美命(イザナミノミコト)との永遠の暮らしより、永遠の別れを決意します。
おそらく、伊邪那美命(イザナミノミコト)の口にしたあの世の食べ物とは桃の事で、女性の陰部を神聖なものとする道教という宗教の西王母(せいおうぼ)という神様が、桃源郷という不老不死の桃の実のなる場所に棲んでいるという伝説から来たものだと思われます。
また、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)の話では、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が結婚相手に選んだのは、永遠の命を象徴する醜い磐長姫(イワナガヒメ)より、限りある命を象徴する美しい木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)の方でした。
磐長姫(イワナガヒメ)は桂(亀)で、木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)は桜(鹿)を象徴するようです。
ここでも、「永遠の命よりも大切なもの」を主張しているようです。
神話や、童話の話は、これぐらいにして、人間は何故、死ぬのでしょうか?
私は子供の頃、誰もがいつかは寿命が来て死ぬという現実を知り、とてもショックで寝れなかった事を覚えています。
死がなければ、どんなに幸せだろうか、何で寿命というものが人間にはあるのだろうかと真剣に悩みました。
そして、その疑問が中学生の頃から、徐々に解けていきました。
人間の細胞は、37兆個(昔は60兆個と言われた)あるそうですが、それらが、細胞分裂を繰り返し、古い細胞は、垢(あか)や毛髪、爪などになって体外に排出され、新しい細胞に入れ替わります。
新陳代謝(しんちんたいしゃ)と呼ばれますが、全ての細胞がDNAという設計図に基づいて新しく作り直されます。
その新陳代謝の周期は各臓器の細胞によって違うのですが、もっとも早いのが脳細胞の新陳代謝で約4週間で、新しいものに入れ替わっていると言います。
そして、約3ヶ月(6年という人もいる)で、体の全ての細胞が入れ替わるというので、入れ替わる前の自分と、入れ替わった後の自分は全くの別人ということになります。
ただ、記憶が伝達されて、現在の自分も、過去の自分も、同じ価値観を共有する為、入れ替わっていることに気が付かないというわけです。
臓器提供で問題となる「脳死を人の死」と考えるのは、「記憶の死」を意味しているように思いますが、そうなると、別人であっても、記憶の伝達さえ出来れば、命の移動が可能ということになります。
命とは何なのか、訳が分からなくなります。
細胞は全て、新陳代謝の周期のルールに従っているのですが、そのルールを無視するものもあるそうです。
がん細胞です。
がん細胞は、寿命がなく、古くなっても働きをやめず、どんどん細胞分裂を続けて増えていくそうです。
がん細胞は、細胞分裂を続ける為に沢山の栄養が必要で、通常の細胞よりも食欲旺盛で、この異常な食欲を利用して多くの製薬会社が治療方法を模索しているそうです。
自然免疫の主要因子として働く細胞傷害性リンパ球で、明治のヨーグルト「R-1」で有名になったがん細胞の天敵であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)も、治療方法として注目されています。
食品では、トマト、ニンニク、玉ねぎ、キャベツ、ブロッコリー、ピーマン、苺、椎茸、舞茸が、がん細胞を攻撃する免疫に作用するようです。
同じものばかり食べると栄養も偏るので、これらの食材を使ったメニューをローテーションすると良いと思います。
ちなみに、ホールトマトを使用してニンニク、キャベツ、ブロッコリー、玉ねぎなどを煮込んだミネストローネは、花粉症やアトピーなどのアレルギーの方にもおすすめです。
人間は、新陳代謝で、新しい細胞を作る為に、毎日、ご飯を食べないといけません。
逆に言うと、新陳代謝がなければ、活動する為の必要最小限の食事で済みますが、何故か、いちいち全ての細胞を作り直します。
この新陳代謝と似たもので、ある周期で、神社の本殿を壊して、違う場所に新しい本殿を作り直す「遷宮」(せんぐう)という神道の行事があります。
木材も沢山必要で、とても、効率が悪いように思いますが、実はこの方法が本殿を維持するのに効率が良いようです。
どんなに綺麗な木材でも、環境によって徐々に老朽化していきます。
その為、老朽化して本殿が崩壊する前に、自ら壊して、新しく作り直すわけです。
人間の体も、これと同じです。
人間のDNAには、寿命というプログラムが組み込まれていて細胞は自ら老化するように作られています。
それは、遷宮と同じく、細胞を維持する為です。
人間の死も、これと似ていて、子供を産む事が遷宮に当たります。
この死と、産むがセットになっていて、産むから死なないといけないということになります。
仮に、寿命というプログラムを取り除いて、子供を産まない永遠の命を手に入れた個体がいるとしましょう。
その個体が、野生の世界なら外敵に襲われたり、現代の社会なら交通事故などによって死んでしまった場合、その種族は滅んでしまいます。
そうならない為には、やはり、子供を産んで増やさないといけません。
しかし、寿命のない個体が産む行為を繰り返すと、ねずみ算式にその個体は増え続けて飽和状態となり、かえってその種族の存続を妨げる結果になりかねません。
人間自体を死なせてしまって、共倒れになるがん細胞と同じです。
死と、産むのセットは切り離さない方がいいようです。
この古い個体が死んで、新しい個体を産むシステムは、個体が環境に適応するのにも威力を発揮します。
いわゆるメンデルの法則で、何人か産んだ子供の中から環境に適応した個性を持つ個体が生き残り、子孫を残し、その環境に合った個性が遺伝されていくということです。
また、突然変異という今までの設計図と異なった個体が定期的に現れて、環境という篩(ふるい)に掛けられて、環境に適していないものは死に、適したものは生き残ることで「進化」が起こります。
人間の脳細胞が発達したのも、進化の賜物というわけです。
少し話は変わりますが、人間の記憶には、頭で覚える「陳述的記憶」(ちんじゅつてききおく)と、体で覚える「手続き記憶」(非陳述的記憶)があるとされます。
いわゆる運動神経と呼ばれる才能は、「手続き記憶」の賜物で、大脳基底核と、小脳で作り出されます。
「陳述的記憶」は、海馬(かいば)で一度、「短期記憶」として蓄えられ、個人にとって衝撃的な出来事や、繰り返し起こる出来事は、「長期記憶」として大脳皮質に移行され、それ以外の記憶は必要のない記憶として忘れ去られます。
海馬は、こういった「短期記憶」を蓄える機能の他に、必要に応じて過去の記憶を引き出すという役割も持っています。
日本で多いとされるアルツハイマー型認知症が進行すると、この海馬にダメージを受け、昔の事は覚えているのに、つい先ほどの事を忘れてしまうという状態になったりします。
また、過去の記憶を引き出す能力が低下する為、危険を認識して逃げるなどの動作が出来なくなって事故に合うケースもあります。
アルツハイマー型認知症は、アセチルコリンが不足して起こると言われます。
詳しい原因は分かっていませんが、脳内に水に溶けない繊維状のタンパク質βアミロイドという物質が異常に蓄積され、アセチルコリンを分泌する神経細胞を集中的に死滅させるために、アセチルコリンの不足が起こると考えられています。
アセチルコリンは、大豆や卵黄に多く含まれるレシチン(コリン)から作られる物質なので、健康な人でも、不足すると集中力や、記憶力が低下します。
脳血管性認知症と呼ばれる認知症もあります。
脳の血管が詰まり、酸素が運ばれなくなることで神経細胞や、そこから出る神経線維が壊れて発症します。
認知症に近い関係の病気に、パーキンソン病という病気もあります。
この病気も原因は分かっていませんが、パーキンソン病の原因となる物質が私達の環境にあって、食事などで摂取されることで起こっているのではないかと考えられています。
また、殺虫剤に含まれるロテノンという物質をラットに注射することで、パーキンソン病と似た病態になることも分かっていて、そういった成分を取り込んで発症する可能性も出てきています。
マイケル・J・フォックスや、モハメド・アリなどが罹患した難病で、安静時に手足が震え、手足の曲げ伸ばしが固くなる進行性の病気です。
脳内のドーパミンと呼ばれる快感伝達物質が不足して、相対的にアセチルコリンの活性が強くなって運動機能の障害が起こるとされます。
ドーパミンの分泌量が逆に増えすぎると、自閉症状と、連合障害(認知障害)を基礎障害とする複数の脳代謝疾患の統合失調症になると言われています。
ドーパミンは、牛乳、卵、肉などの食品中のたんぱく質に多く含まれているフェニルアラニンと、大豆やチーズに含まれるチロシンなどのアミノ酸から作られる成分だそうですが、パーキンソン病患者の方は、アセチルコリンが増えると問題があるので、栄養摂取にも注意が必要です。
人が幸せを感じる時にドーパミンは分泌されるそうで、食事をした後や、スポーツした後、楽しことをやっている時に分泌量が多く、その幸福感から繰り返しそれを行おうとします。
その為、意欲(モチベーション)と深い関わりのある物質だそうです。
逆に言うと、人間はドーパミンのご褒美を貰う為に生きているとも考えられます。
好きなことを夢中でやっている時は、お腹が空いていた事を忘れることがありますが、これは、ドーパミンが沢山分泌されている為に、食事を取ってドーパミンのご褒美を貰う必要がなくなるからです。
また、覚せい剤などの麻薬は、何もしなくてもドーパミンが大量に分泌される為に依存性に陥るというわけです。
よく、認知症の患者が、食事をした後に、食事をしたことを忘れて、ご飯を求めるという行為は、ドーパミンが不足しているのかもしれません。
この病気も進行性の病気で、現在の医学では、薬で進行を遅らせる事は出来ても、完治する事は難しいとされます。
それは、寿命ともよく似ているように思います。
老化の進行は遅らせる事が出来ても、一度老化してしまうと元には戻せないからです。
日本全国でパーキンソン病患者は、10万人以上いると言われ、誰でもパーキンソン病になる可能性があります。
10歳、年を取るとドーパミンを出すニューロン(神経細胞)が平均10%程度死滅していることが分かっています。
正常値の20%ぐらいまでドーパミンニューロンが減るとパーキンソン病の症状が出るとされるので、20歳の時を100%と仮定して、100歳になると、ほとんどの人がパーキンソン病になるという計算になります。
お年寄りが、動きがゆっくりで、物覚えが悪く、手足が震えるのは、パーキンソン病と同じような症状です。
そういう意味で、老化とパーキンソン病は似ていると考えられます。
パーキンソン病や、認知症を予防するには、「新しい道」を歩いたり、「いつもと違う行動」を取ることで脳が活性化されます。
同じことの繰り返しは、頭を使わなくて楽なのですが、老化を早めます。
若返りの為と思って、新しいことにチャレンジするべきです。
私の知り合いが、「やったことがないから出来ない」という人がいましたが、私は「やったことがないから出来る可能性がある」のだと思いますし、そういう人ほど、「やった方が良い」と思います。
過去に出来たことだけを繰り返しても可能性は広がりません。
また、もう一つの予防法は、「形」から入るという方法です。
子供が元気に走り回るように、若い時はドーパミンの分泌量が多いので、その「形」を真似るのです。
スポーツをしている人で鬱(うつ)の人はいません。
体を動かすことで、ドーパミンが出るので、ドーパミンが不足した時に起こる鬱(うつ)にはならないそうです。
形から入っても、最終的に健康でいるという目的が達成出切ればいいわけです。
それから、もう一つの予防法は、「意欲」です。
無気力の状態から抜け出す為に、用事がなくても、とりあえず「出かける」ということが大切です。
エスカレーターではなく、階段で行こうという「意欲」。
電車で席が空いていても立っていようという「意欲」。
失敗したらどうしようとか、迷惑かけたらどうしようとか、あれこれ考えて行動に移せないのは軽度の鬱(うつ)の状態で、老化の一歩です。
そこから抜け出す為には、何も考えず「出かける」最初の「意欲」が必要です。
自らの意思で「枯れ木に花を咲かせましょう」