ワイン
「食物繊維」に次ぐ、第7の栄養素で、光合成によって作られる植物由来の化合物を、「フィトケミカル」(phytochemical)と呼びます。
ギリシャ語で「フィト(phyto)」は「植物」、「ケミカル(chemical)」は「化学物質」という意味です。
植物に含まれる色、香り、苦味、辛味の成分です。
植物は、太陽の紫外線や、細菌、害虫などから身を守る為に、こういった成分を作り出します。
例えば、苦味ですが、主に果実であれば、皮に、多く含まれていて、細菌や、害虫の繁殖を防ぐ役割をします。
この植物を守る成分が、人間にとっても、有益だということが、様々な研究で分ってきています。
植物も、たくさんの種類があるので、「フィトケミカル」の種類も、現在、分っているだけで、およそ1万種類にもなると言われます。
大きく分けると6つに分類されます。
「ポリフェノール」
(植物の光合成でつくられる糖分の一部が変化してできた物質で、色素系成分のフラボノイドと、それ以外の成分ノンフラボノイドがあります)
「含硫化合物」
(イオウを含む化合物で、にんにく、にら、ねぎ、玉ねぎなどのユリ科に多い香り成分であるシステインスルホキシド系と、大根、キャベツ、ブロッコリー、かぶ、わさびなどアブラナ科に多い辛み成分であるイソチオシアネート系とあります)
「カロテノイド」
(脂質関連物質で、にんじん、かぼちゃの「βーカロチン」や、トマト、スイカ、柿の「リコピン」などアルコールに溶けないカロチン類と、赤ピーマン、とうがらしの「カプサイシン」や、とうもろこし、ほうれん草、ブロッコリーの「ルテイン」な ど、アルコールに溶けるキサントフィル類があります)
「糖関連物質」
(食品化学、栄養学では食物繊維に分類されていますが、海藻類の「フコダイン」、きのこ類の「β-グルカン」、りんごの「ペクチン」などがあります)
「アミノ酸関連物質」
(人間を含んだ動物、あるいは動植物の細胞内にも存在する物質で、いか、たこ、魚介類に含まれる「タウリン」、酵母、レバーに含まれる「グルタチオン」などがあります)
「香気成分」
(植物に含まれる香気成分・精油成分で、バナナの「オイゲノール」、柑橘類の「リモネン」、ショウガの「ジンゲロール」などがあります)
鮭とイクラの海鮮丼
緑藻類で、ヘマトコッカスと呼ばれる藻があります。
この藻には、「アスタキサンチン」と呼ばれる赤色の色素で、「カロテノイド」系のキサントフィル類に分類される「フィトケミカル」が多く含まれています。
この藻を、プランクトンや、オキアミや、海老、カニなどの甲殻類が好んで食べます。
その為、これらの甲殻類の殻にも、「アスタキサンチン」は含まれていて、海老や、カニを茹でると、赤くなるのは、熱によってタンパク質と分離して「アスタキサンチン」が表面に出てくるからです。
この甲殻類を好んで食べる魚もいます。
日本人の朝食で、好んで食べられる「鮭」です。
鮭や、イクラが赤色をしているのは、この植物由来の「アスタキサンチン」が豊富に含まれるからです。
現在、「アスタキサンチン」は紫外線から体を守り、脂質が酸化するのを防止する働きがあり、その抗酸化力は「ビタミンE」の約1000倍、「β-カロチン」の約10倍と言われ、「最強のカロテノイド」とも言われます。
日本人になじみの深い「フィトケミカル」食品は、「鮭」ですが、欧米人のなじみの深い「フィトケミカル」食品は、赤ワインになります。
イエス・キリストが、最後の晩餐で、「パンは、私の肉で、赤ワインは、私の血だ」と表現していたように、欧米人にとって、赤ワインは、付き合いの長い特別な健康食品です。
レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」
赤ワインは、「レスベラトロール」、「アントシアニン」、「カテキン」、「タンニン」といろいろな種類の「ポリフェノール」が入っています。
ワインの原料となるブドウに含まれる「ポリフェノール」は、種に全体の65%~70%、果皮は25~35%で、果肉には2~5%しか含まれていません。
その為、果皮と種を使わない白ワインでは、赤ワインの約10分の1しか、「ポリフェノール」が含まれていないそうです。
「ポリフェノール」は、抗酸化や抗菌、血糖値低下などの作用があり、老化、がん、動脈硬化などの予防に役立ちます。
「ポリフェノール」が注目されるようになったのは、1992年にフランスのボルドー大学の科学者セルジュ・レヌーという人が、ある仮説を立ててからです。
その内容は、「フランス、ベルギー、スイスに住む人々は、チーズやバターといった乳脂肪、肉類などの動物性脂肪を大量に摂取しているにもかかわらず、心臓病の死亡率が低い」というものでした。
普通は、動物性脂肪は、心臓に悪いとされています。
心臓病が少ない理由が、他に日常的に摂取している食品が、それを改善する働きをしているのではないかと考えました。
そして、注目したのが、赤ワインです。
「赤ワインに含まれるポリフェノールが、動脈硬化や、脳梗塞を防ぐ抗酸化作用があり、ホルモン促進作用が向上する」と発表しました。
その理論は、世界保健機関(WHO)によって、「フレンチパラドックス」(フランスの逆説)と呼ばれ、その後、「ポリフェノール」の研究がすすめられました。
ポリフェノールの種類は、フラボノイド系、ノンフラボノイド系の両方を合わせて、たくさんあります。
順番に紹介すると、
フラボノイド系のポリフェノール
「レスベラトロール」
サンタベリー、ブドウ、赤ワイン、ピーナツの皮に含まれます。
「アントシアニン」
ブルーベリーや、ブドウ、茄子の皮、赤ジソ、紫芋、あずきに含まれます。
「イソフラボン」
大豆に含まれます。
「カカオポリフェノール」
コ コア、珈琲、チョコレートに含まれます。
「カテキン」
緑茶、紅茶、カカオ、赤ワインに含まれます。
「エルオシトリン」
レモン、ライムに含まれます。
「ルテリオン」
シソ、春菊、セロリ、ピーマンに含まれます。
「ケルセチン」
玉ねぎ、ブロッコリー、リンゴ、緑茶に含まれます。
「ショウガオール」
ショウガに含まれます。
「セサミノール」
ごまに含まれます。
「ルチン」
そば、アスパラガスに含まれます。
「カルコン」
明日葉に含まれます。
ノンフラボノイド系のポリフェノール
「クロロゲン酸」
コーヒー豆、ごぼう、サツマイモに含まれます。
「ロズマリン酸」
シソ、レモンバーム、ローズマリーに含まれます。
「リグナン」
ゴマに含まれます。
「クルクミン」
ターメリック(ウコン)に含まれます。
「タンニン」
緑茶、紅茶、コーヒー、赤ワイン、シソ、よもぎに含まれます。
とにかく、種類がいっぱいです。
この中でも、赤ワインに含まれる「レスベラトロール」は、フレンチパラドックスの関連が指摘されており、研究がすすめられました。
その結果、サーチュイン遺伝子と呼ばれる遺伝子を、「レスベラトロール」が、活性化させる働きがあることが分ってきました。
このメカニズムは、アメリカのマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテのグループが1999年に発見しました。
サーチュイン遺伝子とは、長寿遺伝子や、抗老化遺伝子と呼ばれ、飢餓や、カロリー制限をした場合に活性化される遺伝子だそうです。
サーチュインが活性化するとヒストンが、脱アセチル化されて、ヒストンのアルカリ性を示す豊富なアミノ基と、酸性の性質を有するDNAとの親和力が高まり、ヒストンとDNAが強く結び付いて、遺伝子の発現が抑制されるそうです。
DNAの活動が抑制されると、DNAの安定化へと変化し、これが結果的にDNAの損傷防止につながり、長寿になるという仕組みです。
研究によって、寿命に、この「レスベラトロール」 が関係することは分りましたが、赤ワインのグラス一杯に含まれる「レスベラトロール」の量は、実験で使用された投与量のわずか0.3%でしかなく、実験と 同じ量の「レスベラトロール」を摂取しようと思うと、ボトルを100本前後、飲まないといけない計算になるため、実用的ではないようです。
フランス人が、赤ワインをよく飲むのは、動物性脂肪を、よく摂取しているので、こういった成分を、体が求めているのかもしれません。
また、チーズには、肝臓の機能を高める「ビタミンB2」や、「メチオニン」、「オルニチン」などの栄養成分が入っていて、ワインにとっても、チーズは相性の良い食べ物です。
フランス人は、「チーズと赤ワインのマリアージュ(結婚)」と表現したりします。
味覚で考えたときにも、赤ワインには、チーズが、おいしいと感じるようです。
肉料理は、酸性なので、ワインのアルカリ性が中和し、ワインのアルコールを、チーズが緩和することで、バランスが取れているのかもしれません。
国際結婚になりますが、個人的には、濃厚なチーズと、あっさりした緑茶も、チーズの味が引き立って、相性の良い組み合わせだと思います。