卵
今回のお話は、「タンパク質」です。
食物として摂取した「タンパク質」は、消化の過程で、「アミノ酸」にまで分解されて、体内で、DNAの設計図を元に、人間の各組織の「タンパク質」として再構成されます。
「タンパク」とは、卵白(蛋白)のことで、英語の「protain」がドイツ語で、「Eiweiß(卵白)」と訳され、これが日本語に直訳されたとことによるそうです。
人体を構成する「タンパク質」は、代謝や運動にかかわるものを除き、およそ20種類の「アミノ酸」から出来ています。
この20種類の「アミノ酸」のうちで、体内で合成できないものを、「必須アミノ酸」と呼び、食品から取るしか方法がありません。
「必須アミノ酸」は、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェルアラニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジンの全部で9種類があります。
人間が長い進化の過程で、食事から不断にとれる「アミノ酸」は、それを体内でわざわざ合成する必要がなく、合成できなくなったのかもしれません。
このように、体に重要な「タンパク質」ですが、取り過ぎには、注意が必要です。
世界保健機関(WHO)2007年の報告では、タンパク質の過剰な摂取は、腎臓疾患や、糖尿病腎症を悪化させるとしています。
「タンパク質」を取れる食品は、牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉、大豆といろいろありますが、「必須アミノ酸」を全てバランス良く含んでいる100%の食品は、実は、卵なのです。
その次の鶏肉でも、90%の食品です。
これは、人類が貴重な「タンパク質」として、卵を食べてきた結果なのかもしれません。
私たちの体は、約60%が水分、約20%が「タンパク質」、残りは「炭水化物」や「脂質」、「ミネラル」などでできています。
なかでも「タンパク質」は、体内で、筋肉や臓器、皮膚や髪、血液などの成分となります。
「タンパク質」は、体内で分解されては合成されるという新陳代謝をくり返していて、人間の体は、たえず作り直されています。
つまり、「タンパク質」が不足すると、この作業が行えなくなるというわけです。
また、卵には、「タンパク質」や「脂質」以外にも、「鉄」、「ビタミンD」、「ビタミンE」、「ビタミンB群」など豊富に含まれています。
「ビタミンB群」の中で、卵に多く含まれる「パントテン酸」という栄養素があります。
「パントテン酸」とは「広くどこにでもある」という意味のギリシャ語に由来し、大抵の食品には含まれていますが、珈琲や、アルコールを取る人や、抗生物質を飲んでいる人は、不足しがちになります。
「パントテン酸」を多く含む食べ物は、他には、牛乳や、納豆、鮭、いわし、鶏のレバーなどです。
欠乏すると、倦怠感、肌荒れ、発育不良、脂肪肝、免疫力の低下、手足のしびれ・うずき、関節痛などを引き起こします。
それから、卵黄には、「レシチン」という栄養素が多く含まれています。
ギリシャ語で、卵黄を意味するレシトース(Lekithos)に由来するそうです。
卵黄に含まれている脂質の約30%はリン脂質ですが、そのうちの70%以上を構成するのが「レシチン」です。
自然界の動植物において全ての細胞中に存在しており、生体膜の主要構成成分だと言えます。
「レシチン」は、リン脂質を含む脂質製品の総称で、卵黄を原料とするものは「卵黄レシチン」、大豆を原料とするものは「大豆レシチン」と呼ばれ、区別されています。
「大豆レシチン」は、血管系に効果を発揮するのに対して、「卵黄レシチン」は神経系に効果を発揮するとされています。
脳を構成する神経細胞のグループをニューロンと言います。
ニューロン同士をくっつけている結合部分をシナプスと呼びます。
私たちは、シナプスで分泌される神経伝達物質によって、受信した情報を、全体に伝達したり、記憶としてとどめたりしています。
「レシチン」はこの神経伝達物質の合成に欠かせない物質とされ、認知症の改善にも、効果が期待されています。
また、「レシチン」には、「コリン」という物質が含まれており、この「コリン」が肝臓から不要な脂肪分を排出する手助けをします。
肝臓の処理能力よりも多く、アルコールや、ブドウ糖、脂肪酸などが、肝臓に運び込まれると、それらは中性脂肪という形で肝臓内に蓄えられていきます。
中性脂肪が増え続けて、肝臓が肥大した状態を、脂肪肝と言い、男性に多い傾向があります。
2002年、横浜市立大学付属病院の中島淳教授という人が、「コリン」を取り除いた食べものをマウスに与え続けると、脂肪肝になって数ヶ月以内に死亡することを発見したそうです。
余談になりますが、ガチョウや、鴨に必要以上の餌を与え、肝臓を、人工的に肥大させたものが、フォアグラで、動物愛護団体により、動物虐待だと指摘され、欧州評議会の加盟国35カ国では、フォアグラの生産は「すでに定着している場合を除き」、1999年に禁止されました。
つまり、大豆や、卵に含まれる「コリン」は、人間には無くてはならないアミノ酸で、肝臓にとって良い働きをするというわけです。
栄養学では、卵は、「完全食品」と呼ばれ、とてもバランスの取れた優れた食品です。
「ビタミンC」以外は、だいたい入っています。
この卵ですが、外国では生で食べることはしません。
それは、サルモネラ菌という細菌が、卵には付着していることがあり、食中毒の危険性があるからです。
日本では、生食を前提にしていて、鶏卵農家が卵の完全洗浄など、衛生管理全般が行き届いていますが、外国では、それらの処理をしていないようです。
ただし、日本でも、「ひび割れた卵」や、「割れた卵」、「割ってから2時間以上経過した卵」を使用するのは危険だと、厚生労働省や、保健所が注意を呼びかけています。
サルモネラ菌が繁殖しやすいからです。
すき焼きに生卵を絡めたり、卵かけご飯や、月見うどんなど、おいしいものがたくさんあるので、生卵が食べれる国に生まれて良かったと思います。
© Kapichu
すき焼きに定番の「生卵」
こんなにおいしくて、栄養価の高い卵を産んでくれるニワトリに感謝です。
日本では、時を告げる神聖な鳥で、神様の使いとして、神社などでも、よく飼われています。
人類は、貴重な栄養源を確保するために、家畜を飼うようになりました。
代表的な家畜は、ニワトリ、豚、牛、山羊、羊などです。
ニワトリの先祖は、東南アジアの森に棲んでいる「セキショクヤケイ」というキジの仲間だそうです。
キジは、日本の国鳥ですが、現在、日本にいるニワトリは、外国から人が持ち込んだ外来種だと思われます。
大昔の人が、このセキショクヤケイを食べたところ、肉や卵がとてもおいしかったので、捕まえて飼い始めたようです。
セキショクヤケイは、飛ぶことが、あまり得意ではなく、人間が飼いやすかったのかもしれません。
家鶏野雉(かけいやち)という、ことわざがあります。
家で飼っているニワトリを嫌って、野性のキジを好むという言葉で、大事なものを嫌い、役に立たないものを好むという意味に使われます。
© かなぷー
ニワトリ
現在、世界中で、ニワトリは飼われています。
牛は約13億頭、豚は約9億頭に対して、ニワトリは約110億羽だと言われています。
世界で、もっと多い家畜だと言えます。
その理由は、経済的なものだと思います。
餌代などのコストに対して、その豊富な栄養素にあるのだと思います。
そして、もう一つは、宗教的な理由です。
ニワトリは、宗教の戒律による規制も極めて少ない動物で、食に厳しい制限があるイスラム教や、ユダヤ教でも、鶏肉と、卵は、食べることが認められています。
菜食が基本のヒンドゥー教でも、厳格な宗派でなければ、卵を食べることが認められています。
人間も、哺乳類なので、大型の哺乳類を殺すことより、卵などを食べる方が、倫理的に抵抗が少ないからかもしれません。
そういうわけで、世界中で食べられている卵ですが、国によって食べ方も違います。
アジアの各地では、ひよこになりかけの半生卵を食べる風習があるそうです。
日本では、ちょっと抵抗があるように感じます。
日本の採卵養鶏農家では、卵を産む雌だけを飼っています。
雄がいないので、卵は無精卵で孵化しないようになっています。
ひよこ
人間は、ニワトリのおかげで良質の「タンパク質」を取ることが出来るようになりました。
人間の歴史の中の、もっとも重要なパートナーです。
だけど、鳥インフルエンザの時には、たくさんのニワトリが、殺処分されました。
人間にも感染する恐れがあるからです。
人間の都合なので、心が痛みます。
早く、そういうことにならない方法が見つかることを願います。
あと、デビークも、少し抵抗があります。
他の方法がないものかと考えさせられます。
最後に、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)という人がいます。
近世日本画家の一人で、江戸時代中期に活躍した人です。
彼はニワトリが好きで、「動植綵絵」シリーズ全30幅のうち、8点がニワトリの絵だそうです。
私も、ニワトリというと、伊藤若冲を思い出してしまいます。
伊藤若冲「紫陽花双鶏図」