チョコレート
今回は、チョコレートのお話です。
チョコレートは、栄養的には、おもしろいものがいろいろと入っているのですが、糖分や、脂肪が多いので、取り過ぎには注意が必要です。
チョコレートの原料であるカカオは、アオイ科の常緑樹で、中央アメリカから南アメリカの熱帯地域の原産だとされます。
カカオは、古代マヤ族によって中米に伝わり、オルメカ、トルテカ帝国、アステカにより、メキシコで栽培されました。
1502年に、コロンブスが、カカオの種子を手に入れて、スペインに持ち帰っています。
チョコレートは、カカオの種子を発酵し、焙煎したカカオマスに、砂糖、ココアバター、粉乳などを混ぜて練り固めたものです。
カカオマスから、一定のココアバター(カカオの脂肪分)を分離した粉末は、ココアパウダーと呼び、それをお湯で溶かした飲料水がココアです。
ココアバターは、カカオの豆の40%~50%を占め、ココアバターを構成する脂肪酸のうち、95%が、「オレイン酸」、「ステアリン酸」、「パルミチン酸」の3種類の脂肪酸です。
カカオの実の断面
チョコレートと、ココアは、フラボノイド系のポリフェノールの「カテキン」を含んでいて、循環器に良い影響を与えると言われています。
チョコレートと、ココアは、「キサンチン」、特に「テオブロミン」、及び「カフェイン」が含まれている為に、犬や猫が、これを食べた場合は、中毒症状を起こして死んでしまう可能性があります。
「テオブロミン」と、「カフェイン」は、アルカロイドと呼ばれる麻薬と同じ仲間です。
蟻なども、この有毒物質の「テオブロミン」がある為に、ココアの粉が地面に落ちていても、近付かないそうです。
この「テオブロミン」は、自然界ではカカオのみに含まれ、ギリシア語で神の(theo)食べ物(broma)という意味を持つカカオの学名(Theobroma)に由来するそうです。
チョコレートには、0.5%~2.7%の「テオブロミン」が含まれているそうです。
人間は、これらの成分を代謝出来る酵素を持っているので、少量なら食べても問題ありません。
「テオブロミン」は苦味があり、ほとんどのアルカロイドは苦味を有しています。
植物は、細菌、虫、動物から自身を防御する為に、これらの苦味成分を生産する能力を進化により獲得したと考えられています。
だから、ほとんどの生物にとっては、この苦味成分は有毒物質になります。
しかし、ある特定の動物は、このアルカロイドを解毒する能力を発達させ、食べれるように進化してきたようです。
「カフェイン」も、アルカロイドの一種で、覚醒作用、脳細動脈収縮作用、利尿作用があり、栄養ドリンク、コーラ、コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶にも含まれる苦味成分です。
体には、自分の意識とは関係なく、体の機能を調整している自律神経という神経があります。
呼吸や、血流、消化や吸収、細菌などから体を守る免疫などとも関係する神経です。
自律神経には、興奮作用のある交感神経(起きている時)と、リラックス作用のある副交感神経(寝ている時)とあります。
「カフェイン」は、最初、副交感神経に働きかけ、気分はリラックスします。
そして、利尿作用が起こり、その後、交感神経に働きかけ、興奮作用を起こすそうです。
カップ一杯のコーヒーで、だいたい、50mg~100mg、お茶で15mg~50mgの「カフェイン」が含まれているそうです。
朝に、コーヒーを飲むのは、副交感神経から、交感神経にスイッチを切り替える作用があるからかもしれません。
茶に含まれる「カフェイン」は、「タンニン」と結びつく為に、その効果が抑制されることから、コーヒーのような興奮作用は弱く、緩やかに作用するそうです。
人間の細胞内に存在するミトコンドリアと呼ばれる真核生物の細胞小器官があります。
独自のDNAを持ち、分裂、増殖する不思議な生物です。
脂肪や糖を燃焼してエネルギーを産出する役割があります。
ミトコンドリアの機能の制御に重要な働きをするのが「PGC1α」と呼ばれる遺伝子で、「カフェイン」は、この遺伝子に働きかけ、増やす可能性があるそうです。
「PGC1α」が増えると、ミトコンドリアの機能が上がり、脂肪が燃やされ、エネルギーが作り出されるので、運動した時と同じような覚醒作用が表れるのではないかということです。
眠気や、疲労感がとれるので、鎮痛薬、風邪薬、乗り物酔いの薬などにも使用されています。
ただし、脂肪が燃焼される時に、「パントテン酸」、「ビタミンB1」、「ビタミンC」などの栄養素が消耗されます。
そういった栄養素が、体には不足気味になり、「カフェイン」を取った時にはエネルギーが作り出され元気になるのですが、効果が切れた後は、疲労を感じます。
結果、また「カフェイン」が欲しくなり、習慣となります。
体は無理を重ねるので、健康的には、あまり良くありません。
タバコの「ニコチン」も、「カフェイン」と同じような作用があります。
そういう効果を知った上で、ほどほどが良いということです。
それから、話は変わりますが、日本人の胃がんの死亡率は、先進国の中ではトップクラスで、欧米と比べても、比較的多い傾向があります。
2003年の日本における死者数は49,535人(男性32,142人、女性17,393人)だと言われます。
欧米と比べて、日本人に胃がんが多いのは、塩分の取り過ぎが原因ではないかとも言われています。
いろいろの原因があると思いますが、最近では、胃に棲むヘリコバクター・ピロリという細菌が注目されています。
人間の胃は、強烈な胃酸(塩酸)を排出しているので、通常の細菌が胃に入っても、すぐに死んでしまいます。
その為、長い間、胃には細菌は棲めないものだというのが常識でした。
ところが、1983年に、オーストラリアのロビン・ウォレンという病理学者と、バリー・マーシャルという医師によって、ピロリ菌が胃の中にいることが発見されました。
ピロリ菌は、ウレアーゼと呼ばれる酵素を産生しており、この酵素で胃粘液中の尿素を、アンモニアと二酸化炭素に分解し、生じたアンモニアで、局所的に胃酸を中和することによって胃に棲むことを可能にしているそうです。
研究の結果、ピロリ菌の感染は、慢性胃炎、胃潰瘍や、十二指腸潰瘍のみならず、胃がん、大腸がんに繋がることが、報告されています。
先進国では衛生管理の徹底によって、この菌を持たない人が多いようです。
しかし、発展途上国では比較的多く、世界人口の40~50%が、ピロリ菌の感染者だと考えられています。
日本の1992年の調査では、20歳台の感染率は25%程度と低率ですが、40歳以上では7割を超えており、発展途上国並に高い結果が出ています。
原因として考えられるのは、戦後急速に進んだ生活環境の改善が背景にあるものと考えられているそうです。
私は、年齢によって感染率が違うのは、和食と洋食の好みの違いが関係しているのではないかと思っています。
若い世代ほど、洋食を好む傾向があり、フライなどの過熱調理した食べ物を取るので、ピロリ菌が胃に入る機会が少ないのだと思います。
反対に、歳をとってくると、油っこいものが苦手になり、刺身や、寿司などの加熱調理していない生の食べ物を取るので、ピロリ菌が胃に入る機会が多く、感染しやすいのだと思います。
現在、ピロリ菌の感染ルートは、はっきりしていませんが、井戸水や、川や、池など水のあるところには、どこでもいる菌らしいです。
年齢的には、免疫力の少ない5歳未満の子供が感染しやすいそうです。
日本人は、野菜でも、魚でも、生で食べることを好みます。
おそらく、それが、欧米の人達より、感染者が多い理由だろうと思います。
刺身などの場合は、緑茶や、大根、ショウガや、ワサビなどが、ピロリ菌を殺菌してくれるそうです。
しかし、こういったものを食べずに、魚だけを食べる人も増えています。
それと、梅干などの殺菌効果のある食べ物を、取らない人が増えてきています。
梅干
梅は、ポリフェノールの一種で、ピロリ菌の運動能力を抑制する効果のある「シリンガレシノール」や、インフルエンザ予防に効果を示す「エポキシリオニレシノール」、そして、糖尿病予防や、虫歯菌の増殖を抑える「オレアノール酸」など、数種類の成分を総称した「リグナン」と呼ばれる化合物が含まれています。
こういった意味で、梅干は、健康に良い食べ物ですが、他の漬物などと同じく、塩分を多く含むので、他の塩分の多い食品を減らすかで、調整することが良いと思います。
ここで、チョコレートの話に戻ります。
欧米はチョコレートの消費量が高くて、糖尿病が、死亡率の上位にくるのに対して、胃がんの方は、ほとんどいません。
反対に、日本は、チョコレートの消費量が欧米より低くて、糖尿病は、欧米より少ないのですが、胃がんが、死亡率の上位に来ます。
世界各国のチョコレートの消費量と、胃がんの死亡率の関係から、ピロリ菌の感染と、ココアの関連性を調べてみようという実験が行われました。
その結果、カカオに含まれる「カカオFFA」と呼ばれる遊離脂肪酸が、ピロリ菌の殺菌に効果があることが分りました。
10%の濃度のココアでも、ピロリ菌は一時間後に80%~90%減少するそうです。
同じ殺菌作用がある緑茶と比べた場合、2倍以上の差があることが分ったそうです。
植物が作り出した苦味成分が、ある特定の菌に対して威力を発揮することは、充分にありえることだと思います。
細菌にとっては、カカオのような珍しい食べ物だと、耐性が出来ていなくて、効果が出るのかもしれませんが、そのうちに、カカオに耐性のある新種のピロリ菌が生まれてくることも充分考えられます。
話が脱線しますが、ボツリヌス菌なんかも、他の菌が棲めない糖度の高い蜂蜜の中で生息していて、100℃のお湯の中でも、芽胞となって6時間近くも生きていられるという、とんでもない菌です。
ボツリヌス菌が持つ毒は、0.5kgで、全人類を滅ぼす事が出来ると言われる、自然界で一番、毒性の強い菌です。
熊本で起きたカラシれんこんの食中毒事件は、このボツリヌス菌が原因でした。
これも、進化の過程で、生まれた菌なのだと思います。
細菌も、植物も、動物も、生存を賭けて、進化してきたわけです。
このように、植物由来の苦味成分は、細菌にとっては強力な「毒」なので、細菌を殺す目的には、有益になるかもしれませんが、代謝できなければ人間にとっても有害な物質です。
健康面ばかりが、クローズアップされていますが、現代は、チョコレートだけではなく、そういった食品がたくさんあるので、総合で、許容量をオーバーするケースも多く、害を及ぼす可能性も大きいように思います。
チョコレートの良い面の話に戻りますが、チョコレートには、抗酸化物質である「カカオポリフェノール」が含まれていて、活性酸素を除去する働きがあります。
これも、植物由来の苦味成分です。
活性酸素は、細胞を傷つけるため、病気や老化の原因と言われています。
「カカオポリフェノール」の抗酸化力は極めて高く、赤ワインの2倍、紅茶の45倍と言われます。
それから、もう一つの苦味成分で、カカオ特有の成分「テオブロミン」があります。
「テオブロミン」は、「カフェイン」と似た物質で、利尿作用や血管を拡張させて血流を増やし、体温を上昇させる働きがあります。
咳止めの効果もあるそうなので、風邪の時に、あったかいココアなんかは良いかもしれません。
また、脳内物質のセロトニンに働きかけてリラックスさせる作用もあると言われています。
そして、「食物繊維」である「リグニン」です。
カカオマスの成分の約17%は「食物繊維」で、「リグニン」が53%近く含まれています。
便秘を防ぎ、コレステロール値を下げ、腫瘍などが出来るのを防ぐ働きがあるそうです。
ココアが、コーヒーに比べて濃く感じるのは、「リグニン」が多く含まれているからだそうです。
最後に、「ミネラル」です。
カカオには、「カルシウム」、「鉄」、「マグネシウム」、「亜鉛」などの「ミネラル」がバランスよく含まれていて、細胞の代謝を助ける働きをします。
このように、チョコレートの効能は、いろいろとあります。
チョコレートは、山で遭難した人が、命が救われたりするほど、栄養が豊富ですが、結構、高カロリーだったりします。
糖尿病や、肥満の原因にもなりかねないので、やはり、取り過ぎには注意が必要です。